場所は日本橋馬喰町。かつて問屋の街として栄えたこの町だが、その繁栄も時代の流れと共に徐々に衰退し、今では当時の面影を失いつつある。しかし、一方で残された建物を新たな感性によって利用されているケースも増え、今まさに新しい時代に移り変わろうとしている刺激的なエリアだ。そんな立地に建つ今回の建物。馬喰町駅と浅草橋駅との中間ほどの神田川沿いに、この街らしいバックボーンを秘めた面白い物件が現れた。
これまで衣服系のデパートとして、長くこの街に愛され続けてきたこの建物。そんな建物も一つの時代に区切りを付け、リノベーションによって新しい姿へと生まれ変わった。とは言え、リノベーションのコンセプトはUnder construction。つまり未完成。工事中の生々しい素地感をあえて表現した内外は、他ではなかなか見る事のない風変わりな仕上げとなっている。今回紹介する区画は4階のフロアで、かつては店舗のバックヤード倉庫として使われていたという区画。400㎡の広々としたワンルーム空間の中に、中央に建ち並ぶ太い柱が作り出す倉庫さながらの印象的な空間。素地の荒々しい表情と、天井を巡る配管類のインダストリアル感。窓面は少なく、少々ドライな印象でありながら、そのクールさがまた強い魅力を放っている。新たにリノベーションされたはずなのに、なぜか建設当時にタイムスリップしてしまったような不思議な気持ちにさせてくれる面白い空間だ。もちろん、これが一つの完成系であり、空調や水回りなどもしっかり整えられているので安心してほしい。
8割りほどで工事を止めたような空間。必要であれば間仕切りを立て、ボードを張り、オフィス仕様に仕上げるのも良いだろう。しかし、あえてこの空間を楽しんでみてほしい。空間を遮るような間仕切りもなく、雑然とインテリアや植物を並べ、空間ではなく距離感で全体を分けつつも繋がるような。そんな空間で働けば、誰とでもカジュアルにコミュニケーションが生まれるかもしれない。この未完成というコンセプトは、どこか仕事とリンクしているように思える。どんなに成功した会社でも、いつまでも完成という到達地点はなく、常に完成へ向け走り続けて行かなくてはいけない。そう考えると、この空間やこの街は、まだまだ走り続けている未完成の状態だからこそ魅力的に感じるのかもしれない。
EDITOR'S EYE
天井高は2.7Mほどと特別高い訳ではないが、間仕切りのない広々とした空間の為か、不思議と開放感すら感じた。あえてワンルームのまま使う事で、自然と誰とでもラフに繋がり、ひょんな話しから素晴らしいアイディアが生まれるかもしれない。多くのスタッフを抱える会社だからこそ、あえてワンルームで全体を繋げ、スタッフ同士のコミュニケーションを誘発してみてはどうだろう。